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「....菜花さんの、不採用を見たくないって気持ち、凄くよくわかります。」
彼は、少し視線を落として、そう言った。
「僕も、オーディションの時。毎回駄目で。それでもどこか認められなくて、いつも、もしかしたら今回は..って思ってしまうんです。期待した分の衝撃って、きついですよね。頭が真っ白になって。」
彼の言葉は、去年の私にぴったりと重なった。
不採用のメール。通知。
何度見ても、見慣れることなんかなかった。
見る度に「もしかしたら」を期待して、尽く裏切られた。
不採用の文字を見た瞬間は、心臓を冷たい手で掴まれたような感覚だった。
「....何が悪かったの、何がいけなかったのって。思いますよね。」
「..最初は、不合格にするくらいなら、どこが悪いかちゃんと教えてくれって、思うんです。」
「思いますね..。でも、だんだん、不採用ばっかり見てると、自信なんか地に落ちて。....最後の方には、何で落ちたかなんて知りたくないって、思い始めました。」
「....ここが駄目。ここも駄目って。毎日自分で自分を批判して。ベッドに入って。」
「「明日が来なければいいのに。」」
2人の重なった声は、部屋に響いて。
私達も驚いて、思わず顔を見合わせる。
大きくて吸い込まれそうな瞳には、私しかうつっていなかった。
「....あの、髪。」
「え? 」
先に話したのは、彼だった。
「..糸、かな。ついてます。小さいけど。」
「えっ」
「取っても、いいですか? 」
「あ....お願いします....。」
彼は私の髪に触れて。
すぅっと、梳かすように取ってくれて。
ありがとうございます、と言おうとしたら。
彼は、今までで一番優しい瞳で。
私しかうつっていない、くすんだガラス玉のような瞳で。
私を見つめて。
私の頭を撫でて。
「知らない間に、思ったよりボロボロですね。俺たち。」
僕、と言い続けてた彼の、本当の姿が。
見えた気がして。
堪らなく、愛しくなって。
私は思わず、彼にキスをした。
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