解けないのなら溶けてしまいたい

6/14
前へ
/14ページ
次へ
きっかけは、何だったっけ。 あぁ、そうだ。 彼と初めて出会った時から、半年後。 彼が父の服を着て、人前に出た日。 父曰く、その年は黒が流行で。私には、何が流行りでどこからそういう情報を仕入れるのか、全くわからない。 父の作った服は、黒を基調とした、角度によってキラキラと光る服。 私は初めて見た時、思わず女物のドレスみたいと言ってしまった。父のデザインは、私みたいな凡人には理解し難い。これの何がいいの?とすら思ってしまう。 この服は、着こなすのは無理だろう。だって女物にしか見えないし。 完成した服を父の職場で見た時、そう思った。 でも、当日。 私の予想を裏切って。 彼は、見事に父の服を着こなしてしまった。 まぁ、なにをもって着こなしたと言えるのか、ときかれると、説明するのは難しいけど。 ただ、会場で彼が出てきた時。 私は思わず、息を飲んだ。 女物のドレスみたいだと思っていたのに。 彼が着ることで、それは、彼の男らしさを際立たせる服になっていた。 まるで、彼のためにあるかのような服。 月並みだけど、その言葉が1番しっくりきた。 真っ黒で、照明の角度によってキラキラと光る服は華やかで。 なのに彼の目は、酷く儚げで。 そのアンバランスさに、私はすっかり心を掴まれてしまった。 なんて綺麗な人なんだろう。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加