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「僕が貰っていいのか..。むしろ、大役を任せてもらって。僕の方こそ、何かお礼を..。」
「いえ、お構いなく。いつもなんです。父の美学というか。服を着てくれた方には、例外なくお渡しさせてもらってるので。直接お礼を言いに来れなくてすみません。」
「とんでもないです..では、いただきます。ありがとうございます。」
彼の口元が、緩む。
その表情は、照明の中で見た儚い視線とは、全くの別物で。
花が綻ぶように、繊細だった。
「素人だったので。これでいいのか不安でした。今も思い返すと不安なんですけど。」
「そんなことないです!! とても素敵でした!! 」
思わず間髪入れずに大きな声を出してしまう。
彼も驚いて、私の方を見た。大きな目は、さらに見開いている。
「あ、すみません..。..でも、本当に素敵でした。私、正直、あの服は誰も着こなせないって思ってたんです。..だから、貴方がステージに出てきた時、驚きました。」
目の前に、彼が出てきた時の衝撃。
彼がランウェイを歩いてきた時。
一歩一歩、近づいてくる姿に、私はトリハダが立った。
「こんなに綺麗な人が、いるんだ、って....。思いました..。」
今も鮮明に思い出せる。
真っ白いライトに照らされて、黒い服に身を包んで。チカチカするカメラのフラッシュの中を、颯爽と、でもしっかりと、歩いてくる姿。
奥に見える表情は、はっきりした顔立ちなのに、どこか消えてしまいそうで。
目眩がしそうな美しさだった。
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