解けないのなら溶けてしまいたい

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「成瀬さんの儚げな表情が服と合ってて..あの、上手く言えないんですけど、父の服を着てもらった姿を見て、こんなに衝撃的だったのは初めてです。」 自分の言葉のレパートリーが少ないことを恨んだ。 「ありがとう、ございます。」 彼の、少し口角が上がった表情は、今度は私に向けられていた。 「..あの、こんなこと言うのもあれなんですけど....実は、昨日。オーディションが駄目で。」 「え? 」 物静かな雰囲気の彼が、どこか壁を作るような雰囲気を持つ彼が、自分の話を始めると思わなかった。 少し、いや、わりと驚いた。 「オーディションです。舞台の。」 「あ、はぁ..。」 「もう何度目か、数えてもいないですけど。..辞めたいって、思ってたんです。」 「....。」 「..すみません。急にこんな話。」 「あ、いえ..。」 「でも、その、落ち込んでたっていうか..。今日の僕の気持ちが、表情に上手く現れてたなら、逆に良かったかなって思いました。」 凛々しく。気高く。少し寂しそうな顔で。 綺麗。 「あ、勿論、切り替えてきたつもりでした。でも、無意識のうちに表情に出てたのは、やっぱり役者を目指す身としてはあまり良くないですかね。..すみません、自分のことばかり。」 「いえ、全然....。..あの、弱みというか、そういう部分を、あまり見せない方なのかなって。勝手に思ってました。今まで会った時の雰囲気から。」 「え、と、そう....ですね....。普段は、あんまり出さないように意識してるんですけど....緊張が溶けたのかも。」 清廉されたようで、どこか妖艶な彼の雰囲気。 もしかしたら私は、この頃から、彼の毒に侵食され始めていたのかもしれない。
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