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はっと振り向いて、彼は僕の姿を認めた。瞬間、気のせいか少しだけ気が緩んだように見えた。
「なんだ、岩下君か」
「どうした、明かりもつけずにぼーっとして」
「え? あー、帰ろうと思って、荷物取りに来たんだけど」
困った顔で机の中から出したであろう、箱の山を見ている。思わず、笑ってしまった。
「ひょっとして貰い過ぎってやつか」
「うん。思ったよりかさばって、カバンに入りきらないんだ」
申し訳なさそうに手元の箱をいじっている。少しだけ包みをほどいた箱がいくつかあった。
「ちょっとだけ食べたりしたけど、さすがに全部はなぁ」
「いや、それは無理だろ。気分悪くなったら辛いから、やめとけ」
「そう?」
とぼけた調子で首をかしげる、一風変わったテンションの持ち主。
クラスの中で少し浮いた感のある僕に対しても、彼は態度を変えたことがない。
だから僕も、彼とはあまり警戒することなく話していた。「貰い過ぎるのも大変だな」
「いや、でも悪くはないよ。貰い物ってさ、自分じゃ絶対に買わないようなものが転がり込んできたりして、予想外の嬉しさがある」
「え? チョコレートだろ、それ」
「うーん、チョコじゃないものもあるよ」
「マシュマロとか? あ、まさかブランド物とか?」
「ふふ、送った方は案外、そんなに喜ぶと思っていないかもしれないけれどね」
「え、そうなのか。じゃあ、送った方は嬉しいだろうな。そんなに喜んでもらえるなんて」
「さぁ、どうだろうなぁ」
彼はなんとも形容しがたい笑みを浮かべた。嬉しそうで、けれども何だか申し訳なさそうな。
僕は、それが妙に引っかかったけれど、彼の口が重いので、それ以上は追求しなかった。
努めて明るい声で、話題を変える。
「それにしても他の奴らと一緒じゃないのか。珍しい」
「いや、そうでもないよ。生徒会ある日は、いつも一人だから」
「あ、そうだったのか」
「そういえば岩下君は、いつも一人で帰っているよね。別に友達いない訳じゃないのに」
「僕は部活の関係。二年の男子は一人しかいないから」
他愛もない会話をしながら、僕も机の中を確かめた。
予想通り、ゼロ。泣くな、自分。
そんな僕の心境を知ってか知らずか、彼はああ、と屈託のない声で言う。
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