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「あ、いや、その、さ」
「お前ら……」
僕の声が、ひどく冷えるのが自分でも分かった。
怒りともつかない、なんだかひどく沈んだ感情が僕を支配する。
「あいつに毒物を贈ったのは、お前らか」
男ががっくりとうなだれ、そして同情をひくように女が泣き真似を始めた。
「……本当に飲んじゃうとは、思わなかったんだよ」
「だって間違いようがないもの。ちゃんと瓶のラベルに毒物って書いてあって、気づかないなんてことは」
(ああ、そうか――)
僕はようやく、気づいた。前日の会話で彼が言っていた、予想外の贈り物の正体に。
「気づかなかった訳じゃないと思う」
「え?」
「アイツは、お前らとは違うよ。そんな間抜けじゃない」
自分でも恐ろしいくらい、感情のこもらない声が出た。
「間違って飲んだんじゃない。遺書はなかったみたいだけど、自殺は自殺なんだろう」
「そう思うのか?」
「ああ」
そうか、という彼らは納得したわけでもなさそうだったが、それでもほっとした顔をしていた。
言うほど過失を感じていた訳でもないのだろうが、それでも不安だったのだろう。
別に、彼らを安心させてやるつもりもなかったが、その思い違いをそのままにしておくのも何か違う気がした。
少し申し訳なさそうな、彼の笑みを思い出す。
――さぁ、どうだろうなぁ。
そそくさと去っていく彼らを見つめ、僕は階段の踊り場にある窓に手をかけた。
そうだ、そうだった。
彼はたまに、この窓から外を見ていた。
そこを僕が何気なしに声をかけ、わずかな交流が始まったのだ。
「――君は」
ずっと死にたかったのか。
ぽつりと、手元に何かが落ちた。
にじんだ視界に僕は、たまらずしゃがみ込んだ。
バレンタインデーの翌日だった。
彼は多くの贈り物の中からその一つ、たった一つの贈り物に、死という礼を返して逝ったのだ。
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