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私の名前は高橋小春。どこにでもいるような高校生だけれど、ひとつだけ皆と違うことがある。
それは一風変わったお店で、住み込みでバイトをしていること。
そのお店は、一見すると小さな二階建ての日本家屋。けれど東には人の世に繋がる橋を持ち、西にはアヤカシの世に繋がる橋を持つという小さな茶房。
名前を『茶房 幻橋庵』という。
「お帰……む?何だそのちっこいのは?」
裏口からお店に入ると、厨房で仕込みをしていた左門さんがこちらを振り返った。私が連れてきた女の子に気付いて首を傾げる。
藍色の和風シャツに黒のズボンを身に纏い、辛子色のエプロンを付けた彼は、このお店の店主の一人だ。年齢は聞いたことがないけれど、見た目は二十代くらい。意志の強そうなキリッとした眉に、吊り上がった目尻。端正な顔立ちなのに、鋭い目つきのせいで人相が悪く見えてしまう。
ぶっきらぼうな口調で、愛想笑いを浮かべることすらしない左門さん。こう見えて実は面倒見がいい……のだけれど、小さい子からしたら怖いのかもしれない。女の子は私の後ろに隠れると、小さな手でぎゅっとスカートの裾を握ってくる。
しかし、この程度では引かないのが左門さんだ。作業の手を止めてこちらに歩いてくる。
「チビ春が更なるチビを連れてきたか……」
「幻橋案の看板の下で泣いてたんです。あとチビ春じゃなくて小春です」
左門さんは何故か私を「小春」じゃなくて「チビ春」と呼ぶ。その度に訂正するんだけれど、果たして直る日は来るのだろうか。ちょっと難しい気もしてきた。
遠い目になる私にも構わずに、左門さんはしゃがみこんで女の子に視線を合わせる。
「どこかで見たことがあると思ったら……お前、緋染岩のチビ狐か?」
『緋染岩』の名前が出た途端、女の子の瞳がぱちんと瞬いた。そこが彼女の住んでいる場所の名前なんだろうか。チビ狐ということは、この耳と尻尾は狐だったんだ。
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