狐とチョコレート

1/11
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

狐とチョコレート

いつもの道順を辿って私は帰路につく。 駅に降り立ち住宅地を抜け、林に囲まれた坂道を登って――…いつもなら坂の途中の看板を目印に横道へ逸れるのだけれど、今日は足を止めてしまう。 何故なら、その小さな木製看板の足元に、小さな女の子が座り込んでいたから。 「うぅ、ふぐぅ……」 抱えた膝に顔を埋めているから表情は分からないけれど、微かに洩れる声を聞くに泣いているみたいだ。 緋色の着物に銀杏色の帯を結んだ、おかっぱ頭の女の子。四、五歳くらいだろうか?肩で揃えた柔らかそうな髪からは、先がこんがり焼けた茶色の……猫?犬?のような耳が生えている。良く見れば、帯の下からもふわふわの尻尾が覗いていた。 ハロウィンの時期ではないし、こんな場所にいるということは……アヤカシかな? 「こんな所でどうしたの?」 私は驚かさないよう、優しい声で語り掛けながら彼女の前にしゃがみ込む。すると、ぐずぐずと泣きながらも顔を上げてくれた。 涙に濡れた大きな瞳がこちらを見上げる。りんごのように赤く染まったほっぺは柔らかそうでつつきたくなるけれど、今はまだその時じゃないと頑張って耐える。 「……うえ……」 「ん?」 「あにうえ……」 可愛らしい顔がくしゃくしゃになって、再びぼろぼろと涙がこぼれ始める。私はあたふたとハンカチを差し出すけれど、女の子は顔を上げて泣き出してしまった。 「あにうえぇぇー」 「わあぁ、ごめんね!あにうえじゃなくてごめんねぇぇ!」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!