慣習

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慣習

和菓子屋との出会いの日から新田はバレンタインデーの復活に動き始めた。 復活と言っても誰も知らないイベントである。 従業員も取引先も誰一人として最初から乗り気になってくれる者はいない。 新田は自分の中の当たり前のことが世の中と異なる苦しさを改めて思い知らされた。 それでも自分を励まし、手当たり次第に身の周りの自分が出来ることからやり続けていった。 先代から受け継いだ洋菓子店の売上のためでもあったが、新田にとってバレンタインデーは当然のように存在すべきものであるという確信が彼を突き動かしている。 たとえ今は人々の中に存在していないとしても、存在して当然だと自分自身が信じて疑わないことこそがいつか実現するための条件なのだと新田は強く信じている。 自分の中の至極当然の物事を人々の慣習にまで広く浸透させるには、自分が出来ることを根気強く続けることが大切なのだと、あの和菓子屋の客に学んだ気がしている。 彼の頭にはもう迷いも混乱もない。 洋菓子店へ訪れた客がどんな困惑した表情を浮かべようとも新田は声を掛け続ける。 「2月14日のバレンタインデーにチョコレートを贈りませんか」 image=513342005.jpg
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