しょっぱいバレンタイン

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3週間経った。 平日の朝は目玉焼き丼、夜は無理せずに牛丼屋に寄るかカップラーメンで済ませる習慣がついた。たちまち肌が荒れてきた。 せめて週末くらいは頑張ろうと思い、カレーに挑戦した。 近所の主婦に見つからないよう遠回りして隣町のスーパーで食材を買い、カレー粉の箱に書かれた「おいしい作りかた」を熟読した。 小学生の頃のキャンプで同級生たちとカレーを作ったことを思いだしながら野菜を刻み、肉を切った。 あれから30年も経ち、俺は今こんなにみじめな気持ちでひとり台所に立っている。玉ねぎのせいか、鼻の奥がツンとした。 カレーは意外にうまくできた。具材が鍋の底に焦げつき、コクがいまいち足りない気もするが、味は全然悪くない。 妻や息子にも食べてみてほしくなった。 妻の料理をろくに味わうこともなくテレビやスマホを観ながら食事していた自分を殴りたくなってきた。 お代わりのカレーを盛りつけた皿をスマホのカメラで撮り、妻にLINEで送ってみた。 無視されるかと思いきや、「びっくりしました」と返信が来た。 それだけのことで、無性に嬉しくなった。
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