しょっぱいバレンタイン

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「脇田くん、なんか最近顔つきが違う」 営業データを打ちこんでいると、回覧書類を持ってきた本山に声をかけられた。 「え」 「なんか引き締まってるって言うか、シブくていい感じよ。ふふふ」 「まじか」 冗談でも嬉しい。 目の前にある、きれいに盛り上がった胸元に目をやった。久しぶりに色っぽい気分になった。 「そういえば、奥さんって帰ってきたの?」 そのひと言で現実に戻った。 「……いや」 「え、プチ家出って言うには長くない?」 本山は思わず大きな声を出し、慌てて口に手をやった。 何人かの同僚が顔を上げ、気まずそうに視線を逸らした。胃が痛くなってきた。 その夜、久しぶりに本山と飲んだ。 居酒屋の雑音や雑多な料理の匂いは、俺を少しほっとさせた。 「そっか、ひとりで頑張ってるんだね。偉いじゃん」 本山は仕事中はひとつにまとめていた髪をほどき、胸のボタンをひとつ開けていた。 俺なんか誘惑してどうするんだろう。勝手なことを思った。 「おまえはどうなのよ、ずっと独身でいいのかよ」 焼酎のお代わりを飲みながらストレートにたずねると、本山は眉根を寄せた。
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