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「脇田くんさ、そんなデリケートな質問するんならもっと表現のしかたってもんがあるでしょう」
「え、ああ」
「そういうとこよ。鮎川さんも言ってたよ。『脇田さんって顔はいいのに中身が子どもみたいで残念』って」
「――まじか」
俺はじわじわと打ちのめされた。
本山は姿勢よく座り、エイヒレをかじっている。
沈黙が生まれると、その余白に雑音がなだれこんでくる。背後の席のサラリーマングループの卑猥な話が聞こえたのか、彼女はまた少し顔をしかめた。
「……あたしはさ」
少しの沈黙のあと、本山は烏龍ハイを飲みながら言った。
「男女が平等じゃないっていう悲しい現実を両親にずっと見せられてきたからさ。だから結婚はしないって決めてるんだ」
「そうなの?」
そんな話は初耳だった。
「父はたしかに一流企業の管理職でそれなりに稼いでたけど、だからって母のこと召使いみたいに扱うのよね。今で言うモラハラよね」
「……」
いろいろと耳の痛い話だ。モラハラとは、モラル・ハラスメントか。
近年は何でもかんでもハラスメントにしたがるもんだな、という程度の認識しかなかったが。
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