しょっぱいバレンタイン

「女って生まれた時点で詰んでるよね。年頃になれば早く嫁に行け、嫁に行ったら子どもはまだか、産んだらふたりめはまだかって、一生うるさく言われ続けるのよね」
俺は首(こうべ)を垂れて、箸の先で厚焼き玉子をいじった。
ここ最近、急激に世界の見えかたが変わった気がする。
「理想の夫婦像も見たことないのに結婚しろって言われるの、ほんと苦痛。脇田くんも気をつけなさいね、いろいろ」

気分転換に、カーペットを買うことにした。
仕事帰りに車を走らせ、ホームセンターを訪れると、ずらりとひしめく多種多様な家具やインテリア用品に出迎えられた。
新婚時代、妻と指を絡めてソファーやカーテンを見て歩いた思い出が、否応なしに蘇った。本当にもう、一緒に暮らすことはないのだろうか。

胸をつまらせながら通路を歩き、カーペット売り場で様々な色柄や素材をチェックしていると、赤・白・黒の幾何学模様の一枚が目を引いた。