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これ、芙美が好きそうだな。
いったんそう思ってしまうと他が目に入らなくなり、俺はそれを購入した。
ついでにソファーも欲しくなったが、妻が戻ってきてくれることを信じて見送ることにした。
帰宅してカーペットを床に広げてみると、寒々しかった部屋がいくらか温かみを取り戻した気がした。
約束のホワイトデーが明日に迫った。
俺は業務を調整し、13日・14日と連続で有休を取った。
雑巾と粘着テープと掃除機で、すべての部屋を隅々まできれいに掃除した。浴室やトイレも磨き抜いた。
この家をひとりで回し続けた妻の気持ちを、知りたかった。
タイムカードも定時の概念も残業代もなく、夫と息子の衣食住を休まず引き受けてきた妻の孤独に寄り添いたかった。
俊介にも、きちんと理想の夫婦像を見せなければならない。そのためにも、妻を知りたい。
汚れ物を洗い、風呂や鏡を磨き、料理を作りながら、芙美は何を考えていたのだろう? 家事育児以外にやりたいことやほしいものは何だろう?
こんなことを考えたことは、結婚以来なかった気がする。そのことを深く恥じた。
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