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言いながら、目尻に涙が浮かんできた。本当に自分が情けなかった。
「……」
「だからさ、おまえや俊介がこれで終わりって言うなら受け入れるよ。そんでもっと自分を磨き直したら、もう1回プロポーズするから」
「……なに言ってんの」
「婚姻届をチョコの箱に入れて送りつけるよ」
「ばか」
妻の声もどこか泣き声に聞こえた。気のせいだろうか。
「……ねえ、あたしがずっとほしがってたもの、忘れてたでしょう」
しばしの沈黙のあと、妻が口を開いた。
「うん?」
なんだろう。妻がほしがっていたもの――さっぱり記憶にない。まさか、第二子か?
「……すまん、本気でわからん。何のこと?」
「結婚10年目には、ほら」
何かが引っかかった。いつのまにか靴の中に入りこんだ小石のような違和感。
「えっと――」
「スイート・テン・ダイヤモンド・リング」
妻は一語一語はっきりと発音した。
「ああ……」
そうだ。そういえば、結婚5年目くらいまで頻繁にそんなことを言われていた。
いつから諦めたんだろう。
いつから、夫に期待しなくなったのだろう。
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