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:: その1 ::
「私も行く、ズルい二人で登るって決めてたのに!」
声を荒げた。
1人でエベレスト山脈を登ると聞いた時、カッと頭の血が上った。
「でもさー、今じゃなきゃダメなんだよ」
「何が!」
「カメラ仲間にいい事を教えてもらってさ、10月じゃないと駄目なんだ。
お前とは、また今度な。」
そう言って、よしよしと頭をなで「それにお腹の子も、心配だろ?」と言う。
「知ってたの?」
今、2ヶ月よと言うと、なおさら登山は無理だと留守番にされた。
「すぐ、戻るから」
10日後、メールが届いた。
何がすぐ戻るだ、10日も経ってる。
『 今から戻るから、いいもの見せてやるよ 』
添付された写メには、エベレストの山々が写っている。
1人で登って、1人で満足して・・
でも、いい物って何?
写メにはない物?
返信を返す。
『 いいものって、何よ 』
飛行機の中で夫はそれを見た。機内アナウンスが流れる。
[ 今から離陸に入ります、お客様はシートベルトを・・]
にやにやして返信した。
『 内緒、帰ったら教えるよ。今、飛行機の中だ、もうスマホ使えないから 』
ムッとしたアイツの顔が浮かぶ。
「驚くだろうな・・」
妻、雪の顔を思い出しながら、ニヤけてしまう。
手にはスマホの写メでなく、1枚の写真。
首には一眼レフカメラが、ぶら下がっている。
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