アネハヅル

6/10
前へ
/10ページ
次へ
                   :: その2 ::  4年後、私は登山した。 3歳の息子は母に預け、8848mのヒマラヤ山脈を目指した。  あの後、すぐに飛行機が突っ込んだ山に入った。 家族を亡くし、泣き崩れた幾人もの、人々と共に。 まだ山々には壊れた機体の残骸があった。 何かないかと捜す人に混ざり、私も夫の何かを探した。  4年間、捜してもカメラ以外、何もなかった。  今、私の首に、そのカメラがある。 修理したが表に着いた、大きな傷はそのままだ。 ファインダーを向けた。 白く凍った息が、風に流れる。 真夜中から何日も、ビバークを重ね、案内のシェルパと共に登る。  イエローバンドと呼ばれる、南西壁が見えた。 多くの登山家がここを登るのを夢見る、険しい峰だ。 シャッターを切った。 さすがにここは登れない。 6000mのマナスル氷河を、目指した。 シンとした空間、空気まで凍った白の世界。  シェルパは英語で何か言った、たどたどしい英語でお互いに会話する。 【 あれがエベレストの山頂ですよ。】  夫が言った「今じゃなきゃ、ダメ」という、その10月に私は登った。 夜道が明るくなってくる。シェルパが言った。 【 日の出だ! 】  光が山頂から切り裂くように、差し込んでくる。 急激な気温の変化で、雪を抱いた氷河が太陽の熱で、白い濃霧を生み出す。 風が南南西に流れる。 太陽が昇り切り、上昇気流が生まれる。 その中を何かが、飛んでくる。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加