アネハヅル

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  夫の声が・・・。 何もない、見えるのは白銀の世界。 風の音だろうか?  いや、この山脈には夫の(たましい)が、きっと眠っている。 ヒマラヤ山脈に流れる風に乗って、私にささやいたのだ。  「ガンバレ」と、そう言われた気がした。 「負けるな」そう言って笑う、あの人の笑い声が聞こえた気がした。 もう触れない、どんなに手を伸ばしても届かない。 でも、1人じゃない。 あなたが残してくれた息子。 そして、この山へ来れば、いつだって貴方に逢える。 2年後、息子と共に登ろう。その時はもう小学1年生だ。  下山してスマホで検索すると、すぐに風の鳥の事が分かった。 分かれたシェルパが英名を、教えてくれたのだ。 日本名で「アネハヅル」だと知った。  わずか90㎝の鶴。 大型種ではない、この鶴がそんな高さを飛ぶ。 なんて、なんて、鳥だろう。 白銀に翼を輝かせ、飛ぶ鶴。  何があっても恐れない、諦めない。 負けない限り、8000mもの山も越えていける。 そして、私も!そんな気がした。
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