男女関係は突然に始まる

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「俺は愚痴の多い女は苦手です。」そう過去に口にしたのは、Polarisにアルバイトに来ている菅沼 啓太(スガヌマ ケイタ)さんだ。今年30歳になり、ウェブサイトで漫画を描いている。 「あの人、黙っていたら美人なのに、モテないのは文句が多いからじゃないかな……。」 悪意があるわけではない。菅沼さんが毒を吐くのは職業病みたいなものだ。社会を斜めに見ていないと、物なんて描けないのだそうだ。 俺はあまり気にしてはいない。有栖さんは仕事場で日々戦っているんやろうなあと思うから。ここが彼女の息抜きの場として存在するなら、店の経営者として有難いことだと思う。 アパレル店員として勤務している有栖さんは、おしゃれに手抜きをしない。それも仕事に力を注いでいるからだと思う。 今日も膝下ぐらいまであるサテン生地の黒いフレアスカートに臙脂色のハイネックのセーター。耳には星のピアスが付いていて、首元にも細い鎖のネックレスをしている。真ん中に小さなダイヤが付いている。履いている靴も細いヒールのパンプス。この靴で一日仕事をしているのだから、女の人と言うのはたくましいものだ。 「1時を過ぎたら静かなのね。」 有栖さんは店内を見渡し、ポツリと零した。店のコンセプトがお酒と星なので、この店には海外ドラマや映画を流したテレビやカラオケなどは置いていない。代わりに店内の壁と天井はプラネタリムの星々が輝いている。プラネタリウムは季節に合わせているので、今は冬の星座が映し出されている。 「ねえ、大和くんって星が好きだからこのお店を考えたんだよね?」 「そうやけど。」 「じゃあさ、教えてよ。今、ここに映し出されている星座の名前とか。」 「えっ?」 ……初めてやな。この店を開いてから客に星の名前を聞かれたのは。 大抵はこの雰囲気に惹かれて来店する客が多いため、詳しくひとつひとつの星の名前を聞こうとする人なんていない。特に最近は飲食店を評価するサイトで、お酒が美味しくて雰囲気のいいお店で星4.5個を付けてもらい、そういう客が増えていた。
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