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有栖さんとワインを飲み干し、午前2時きっかりに店を閉めた。
結局、彼女は帰らなかった。いつもよりも酔っている感じがして、多少心配ではあったが、「タクシーを家の前に着けるから。」と言ったので、俺も帰るように促すことはしなかった。
店の片付けや清算が終わるまで、有栖さんは回転椅子でぼんやりと作業を眺めていた。明日は遅番だが仕事なのだそうだ。彼女の店では早番と遅番があるそうで、早番の場合はオープンの1時間前、午前9時に店内に行って掃除やレジの準備などを行うそうだ。遅番の場合は午後1時から出勤となり、最後の店閉めまで働くこととなる。だいたい午後9時半頃に全ての業務が終わるそうだ。
「帰るよ。」
俺が声をかけると、有栖さんは仕事グッズがたくさん入っているであろう、トートバッグを手にして後ろを付いてきた。
「すっかり長居しちゃったね。ごめんね。」
「ええよ。有栖さんがおってくれたから、楽しいクリスマスになったわ。星の話もできたし。」
木目調のドアを開けて一歩外に出たら、息は白くて耳の辺りに冬の冷たい空気がまとわりついた。
「うー、さむっ。」
どうやら寒がりなようで、有栖さんはガウンコートのリボンを閉めて、トートバッグからマフラーを取り出して首に巻きつけた。
「大和くん、寒くないの?」
店で来ていた白いシャツの上からチェスターコートを着ただけの俺に、信じられないと言いたげな声を上げる。
「あー、寒いのは結構平気かも?冬は寒いって思って季節を感じたいやん。」
「信じられない。」
ふふっと笑って、有栖さんは俺より先に雑居ビルの階段を一歩下りた。
ここはエレベーターがないので、1階まで階段を降りていくしかない。細いヒールは後ろから見ていると、踏み外すんじゃないかとヒヤヒヤするが、彼女は今まで一度も階段を踏み外したことはないらしい。
だから今日も余裕だと思っていたはずだ。
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