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視界から彼女が消えたのは、残り6段程度のところでだった。店の鍵を閉めていた俺は、少し遅れて後に続いていた。最後まで降りれたやろうかと思っていたら、深夜にはふさわしくないドンガラガラガラという大きな音がしたかと思うと、
「いったー……」
と言う呻き声が響いた。
「有栖さん!?」
慌てて階段を下まで降りたら、アスファルトにパンプスが片一方だけ転がっていて、地面には膝を曲げて座り込む有栖さんの姿がある。
「大丈夫?」
階段から落ちたのは明らかだった。
「大丈夫。」
そう言って立ち上がったら、アスファルトに赤い血が滴り落ちた。
「えっ!?」
戸惑う有栖さんに俺は腕をとって、階段の一番下に座らせた。申し訳ない思いもあったが、そんなこと言っている場合じゃないので、スカートをめくったら、履いていたストッキングは破れていて、膝からかなりの血が流れていた。
「うわっ!」
失神するのではないかと思うぐらいに有栖さんの顔の血の気はみるみる引き始めていた。
「血、苦手なん?」
「……うん……。信じられないでしょ?こんな気の強そうな女が血がダメなんて。」
「別に気が強そうなんて思ってないけど。それよりこのままやと痛いよな。ハンカチかなんかある?」
「ある。」
どう見ても有栖さんは自分で手当てをできるような状態ではなかったので、彼女から花柄のハンカチを拝借して、それを縦長に折りたたみ傷口が隠れるように膝に巻きつけてくくった。
「応急処置程度やから、すぐに血がしみてくるかもしれんけど……。家どのへん?タクシー乗り場まで送るけど。」
「無理!」
「なにが?」
なにが無理なんだ?
「家に帰って自分で外して、洗って、ガーゼを貼ってなんてできない。絶対に気持ち悪くなって倒れる。」
おいおいって思いつつ、事実なのだとも思う。傷口を一瞬しか見ていないのに有栖さんの顔は真っ青になっている。下手したらこのハンカチを当てたままにしてしまうかもしれない。
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