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果たしてこの判断が正しいのだろうか?俺にはそんなこと知る術はない。ないけど、このまま時間だけが過ぎていくのも問題だ。外は冷え切っている。気温が下がるのに比例して体温も下がってきている。
「うちに来る?手当てぐらいしてあげるけど。」
断るだろうと思った。知り合いではあるけど、バーテンダーと客だ。それ以上の繋がりはない。俺だって、普段なら客を家に呼んだりしない。例えケガをしていたとしても。でも、今日はいつもと違った。思い出してしまったのだ。有栖さんが引き込まれるように星の話を聞いていたことを。
「行く。申し訳ないけど、手当てして欲しいです。」
「……。」
余程、血が苦手なのだろう。今にも泣きそうな顔をしている。彼女の中にはきっとこのケガをどうにかしたいという思いしかない。
「ええよ。俺の家、ここから歩いて10分ぐらいやから。」
仕事柄、店でお酒を飲むこともあるし、終電には間に合わないしなので、なるべく店に近い場所で家を借りた。車で行かないといけない場所にしてしまうと、色々と厄介だと思ったのだ。
有栖さんは立ち上がろうとしたけど、膝に力が入らないようで、またすぐに座り込んでしまう。10分も歩けるのとは到底思えなかった。
「乗って。」
彼女に背中を向けてしゃがんだ。身長差でいったら俺の方が14、5センチは高い。有栖さんはどちらかというと細身だし、家までの道のりぐらいならおぶっていけるだろう。
「それは申し訳ないからいい!自分で歩く!」
素直におぶられるはずもなく、有栖さんは立ち上がろうとするけど、立ち上がってもまたしゃがみこんでしまう。膝は明らかに震えている。
「世話が焼ける。」
自分の中でバーテンダーと客という関係はもう揺らいでいた。彼女の腕を半ば無理やり引っ張って、引きずり上げるように自分の背中に乗せた。
「歩けへんのやろ。子供みたいに駄々こねんな。」
「ご、ごめんなさい。」
ようやく諦めてくれたのか、有栖さんの体重が俺の背中に乗りかかった。
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