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いい香り。バニラのような甘い匂い。男の人の香水にしたら、少し甘い感じもするけど、彼にはよく似合っている。
なーんて、呑気に思っている場合じゃないんだけども。
あの時、大和くんの誘いを断ることもできた。できたけど、断りたいって思えなかった。膝のゲガを自分で手当てする自信がなかったのも事実だけど、もう少しこの人と一緒にいたかった。
人恋しいのかもしれない。前の彼氏と別れてもうすぐ3年になる。前の男に未練があるわけではない。ロクでもない男だったし。大学院の研究員生でお金がなかったのもあって、私に貢がすだけ貢がせて、最後には浮気をしてさようならだった。
「膝、痛くない?」
「あ、うん。」
「もう家やから。」
優しい人だ。店の前にタクシーを呼んで、私を放り込んで去ることもできたのに。
この年で男この人におぶられることがあるとは、思ってもみなかったけど、大和くんの背中は温かくて心地がいい。
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