男女関係は突然に始まる

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3階建ての賃貸の2階の角部屋が彼の家だった。玄関の扉を開けたら、大人が二人立てるぐらいの靴を脱ぐスペースがあり、廊下に面して左側がトイレ、右側がお風呂と洗面台になっているようだった。廊下の突き当たりにはドアがあり、その向こうが対面式のカウンターキッチンが付いた12畳の生活スペースとなっていた。 IH式のコンロが二口付いたキッチンは整然としていたが、決して物がないと言うわけではない。鍋やフライパンは大小とサイズが揃っていたし、食器も来客用と思われるセットも用意されている。前に調理師の資格を持っていると聞いたことがあった。店ではチーズやナッツといったおつまみ程度の物しか出ないので、料理している姿は見ないが、家では料理をするのかもしれない。 大和くんに部屋の中央に位置するソファーに降ろしてもらった瞬間、自分の中に恥ずかしさが込み上げてきて、どうしてあのような大した段差もない階段から転落したのだろうかと悔いた。2階に位置するヘアーサロンには長年通ってきたが、その帰りに階段から落ちたことなんて一度もないのに。 「とりあえずハンカチはとって、シャワーで傷口を洗わないとやな。」 「うっ……。」 血も苦手だが痛がりでもあるのだ。専門学校生の時に、仲間と一緒にピアスを開けた時も、痛過ぎて私一人が泣いていた。もちろんみんなには「おおげさだよー!」って言って笑われた。 大和くんは若干困ったように、後頭部のあたりを手のひらでさすっている。 「自分で洗えんよな?」 「……痛いよね?」 「少しはしみるやろな。」 すでにハンカチには赤い血が染み込んでいる。 「洗ってあげたいけど、洗うなら風呂場しかないんよね。そのスカートを濡らすわけにもいかんし、だからと言って、服を脱いでもらうわけにもいかんやろ?」 「いかん!いかんです!」 しれっとした顔でなにを言うのだ!いや、善意の気持ちではあるの……かな? 「あはは。冗談やって。」 余程、私の顔が焦っていたのだろう。大和くんは吹き出すと、カウンターキッチンと通路を挟んで面したところにあるクローゼットを開けて、ナイロン生地のジャージを取り出し、投げて寄越した。 「これ着て。濡れてもええし。」
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