男女関係は突然に始まる

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少ししみるどころではない。 「ぎゃーっ!」 痛過ぎて悲鳴をあげた。鮮血が膝から溢れて、水と混ざり合って、お風呂場の排水溝へと流れていく。耐えられなくて早く終われって思いながら泣いていた。 お風呂場にある椅子に座らされて、ハンカチを外したら、大和くんは「いくで。」とも言わずに一気に水をかけた。その水がしみることしみること! 久しぶりの痛みは、子供の頃にケガをした時のことを思い出させた。ひどいケガをするといつも泣きわめいていた。短気な母親はそんな私にイライラして、「ちょっとは静かにしなさい!」って怒って、ゴシゴシ傷口を洗っていたっけ。 「ごめんやって。もう終わるから泣かんとって。」 なのに、私の目の前でかがんで傷口を洗うこの人は、怒ったりなんてしない。それどころかタオルを私に差し出して、 「顔を隠しとき。血を見たら気分悪くなるんやろ?倒れたら心配やし。」 とまで気づかってくれるのだ。 大和くんは膝についた汚れを完璧に洗い流した後は、最近、主流になってきた、ちょっと高級な貼ったままで傷を直せる絆創膏を貼ってくれた。 「これやったらしばらく貼りっぱなしでも大丈夫やから。自分で傷口を見んでもええやろ。」 微笑む彼と目が合ったら、頭をなでられた。まるでよく頑張ったねって言うみたいに。 「あ、あの、ありがとう。ごめんなさい、迷惑かけて。」 「ええよ。有栖さんはうちの大切なお客さんやし。」 お客さん……その言葉にどうしてだか心に冬の風が吹いた。彼は客の私を心配して家まで連れてきてくれたのだ。そう、ある意味これも今後の商売のためなのかもしれない。
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