一夜明けると残るのは後悔

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「あれー?昨日と同じ服じゃないですかー?何があったんですかー?」 うっ……。 背後からの声に振り返るのを躊躇する。アパレル店員ならではの「いらっしゃいませー。」と「ま」と「せ」の語尾が上がる言い方を日常会話でもするのは、噂話が三度の飯より大好きなうちのショップのアルバイト店員、内海華(ウツミ ハナ)だ。 「何もない。」 「嘘だー!顔が何もないって顔じゃないですよ?」 内海さんはお見通しですよと言いたげに、私の顔を覗き込んでから、隣のロッカーの鍵を開けて、帽子にファーのついたダッフルコートをロッカーのハンガーに吊るした。 彼女の着ているのは今年のうちの新商品で、雑誌にも取り上げられて、かなりの売れ行きだった。内海さんは、入荷してすぐ、雑誌にも取り上げられる前に目を付けて、社割を使っていの一番に購入していた。彼女は目が利くのだ。どのような物が今年流行るのか直感で分かる。アルバイト店員にしておくのが勿体無いくらいに。 「新しい男ですか?正木さん、恋愛するの久しぶりですもんね。合コンも振られてばかりだって、店長から聞きましたよ。」 店長のやつ、お喋りだから内海さんには言ったらダメって釘を刺していたのに。店長に彼氏が出来るまでは、一緒に合コンに行くこともあった。どちらかが休みでどちらかが早番の時などに、遅めに開始時刻を設定して。 合コンで良い出会いがあったかと聞かれると、答えはノーだ。結論から言うと「休みが合わない」という点でデートにまで持っていけなかった。相手側も「土日は休みじゃないんだ。」と必ず口にした。それから「アパレル店員なんて結婚したら仕事は辞めちゃうよね?」とか「綺麗な身なりにしないといけないから、色々大変だよね?」とか。仕事を言ってベクトルがプラスになることはあまりなかった。
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