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そしてもちろんこれで終わりではない。アップしたコーディネートを店頭のマネキンにも着せる。SNSを見て服を買いにきたお客様がすぐに見つけられないのでは意味がない。
「そしたら店頭に並んでいる陳列もこのセーターに変えますね。あと、近くにズボンとコートも置いた方がいいですよね。」
内海さんはこういう時、有難いぐらいにフットワークが軽い。面倒なことだし渋るかなと最初は思っていたが、嫌がる素振りは今まで一度も見せたことがない。噂話が好きなのは確かだが、恵麻姉さんなんて木村さんを呼んで慕っているけど、それもどこまで本心なのか不明だ。
木村さんは私たちが作業を始めても、「みんながそっちに回るとお客様が困るので、レジにいますね。」と率先して言う。それも間違いではない。誰かは店番をしなくてはならないのは事実だ。でも、絶対に内海さんに「大変だし代わるよ。」なんて言うことはない。
「内海さんってさ、うちで社員になる気とかないの?」
マネキンの服を脱がして、セーターを頭からかぶせる。店が開いている時間に作業ができるのは、平日の客が少ない日だけだ。
「えー?正木さん、マジで言ってます?」
「うん。」
頭の回転も速いし、センスもいいし、社員でもやっていける。
「私の父親、不動産業で稼いでいるんですよー。私ね、婚約者もいるんです。親が決めた相手なんてって思ったりするときもありますけど、イケメンで優しいし、まぁいいかなーって。だからここで働くのは社会勉強。それにお洋服が好きだから。それだけです。」
「……。」
唖然とした。世の中には違う考え、生き方の人がいるのは頭では分かっていたが、まさかこんな身近にお金持ちのお嬢様という、自分が出会ったことのないような人がいるとは思わなかった。
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