一夜明けると残るのは後悔

19/20
前へ
/279ページ
次へ
話の一部始終を聞いた伊都はニタニタと笑っている。 「なんやねん。」 立場が逆転している気がする。いつもは俺が伊都に「宮坂のことが大事なら、ちゃんと言葉で伝えなあかんで。」とか言っていたのに。 「別に。めずらしいなと思って。大和がそこまで悩むなんて。大和っていつも感覚でぱぱっとこなすところあるから。だからそうやって、行動に移そうとしないのはらしくないなって。」 確かに伊都が言うように、俺は細かいことをあまり気にしないタイプだ。というか、そう言う風にならざる終えなかった。 小学生の頃に、父親が俺と母親を残して蒸発した。家の有り金を全部持って。元々、放浪癖のある父親だった。仕事は雑誌の記者だったらしいが、ふらっと家を空けて一ヶ月帰ってこないとかもザラにあった。でも今回は一年待っても帰ってこなかった。さすがにこのままここにいてはダメだと母親は決心した。母親は父親と結婚して関西に来たものだから、頼れるような知り合いも近くにはいなかった。父親の方は自分の兄弟や親戚とは疎遠になっていて、母親は父方の知り合いの連絡先すら知らなかった。 「戻ろう。」と彼女は俺に言った。それは自分の地元にだった。俺の祖父母にあたる母親の両親も面倒をみてやると言ってくれていた。無理して父親の帰りを待つ必要はないと彼女は見切りをつけたのだ。俺の小学校卒業のタイミングで、俺と母親は父親と暮らした賃貸マンションを後にした。 それからだと思う。人生は深刻に捉えた方が負けだと思うようになったのは。深刻にとらえたって変わらない未来がある。自分ではどうしようもできないことが世の中にはたくさんある。それなら、思ったときに思ったことをした方がいい。
/279ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2608人が本棚に入れています
本棚に追加