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「でも、このケーキどうしたの?」
カウンターの奥で包丁で半分にされたケーキが、再び私の目の前に登場した。中はチョコレートとバニラの二層のムースになっていた。
「開店前にいつもお酒を仕入れている業者さんからもらってん。クリスマスだからどうぞって。」
「ひとつだけ?」
「ひとつだけ。仕事終わりに食べてねって。このケーキ、めちゃくちゃ高いらしいねん。ひとつ1000円以上するって。」
「ええっ!?」
このサイズで!?ちょうど掌に乗るぐらいだよ?
「信じられんやろ?超有名ホテルのケーキやねんて。」
「あ、味わって食べます!」
思いっきりフォークを刺す前で良かった。一生食べられないかもしれないケーキなのに。でも、こんな高級なケーキ……
「どうして私にくれようと思ったの?」
「……クリスマスやから?有栖さんにクリスマスにこの店に来て良かったなって思って欲しかったし。」
ふわふわっと笑う人だ。触れたら消えてしまいそうな笑顔。
「あ、ありがとう。いただきます。」
「いただきます。」
この感じ久しぶりかも。誰かと一緒に手を合わせていただきますをすること。
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