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「不味そう」
「そんなことないわよ。一口食べてみる?」
「遠慮しとく。そういや、チョコ好きだったな。お前」
「なによ、美味しいのに」
そんなことを言いつつ、モグモグとホットチョコドッグを平らげていく。
「そういえば……」
今更ながら、気がついた。
普段から見慣れている筈の幼なじみは、少しだけ様子が違っていた。
いや、様子というより外見が……。
「おまえ、なんで髪を結んでるんだ?」
「え……?」
「学校にいる時は結んでなかっただろ」
「あー、これ? だって、下ろしてたら食べにくいじゃない」
幼馴染みは、束ねてた髪をチラリと一瞥しては照れくさそうにはにかんだ。
普段は長い髪を下ろしていて、今のように結んでいる姿は見たことが無い。むしろ髪留めを持っている事にも驚いた。
そんなこちらの気持ちなど露知らず、幼馴染みはあっという間にチョコホットドッグを食べ終えると包み紙を丸めて傍のゴミ箱に捨てた。
幼馴染みの姿を後ろから見ると、長い髪が猫の尻尾のようにフワフワと揺れている。正直、可愛かった。
「……なあ。帰るまでの間、その髪のままにしてろよ」
「で、でも……なんだか慣れなくて恥ずかしいよ。家にいる時くらいしか、結んでなかったし」
手をウェットティッシュで拭く幼馴染み。その姿を直視できないまま、ポツリと呟いた。
「……から」
「え? ごめん、よく聞こえなかったんだけど……」
「……似合ってるから。俺の前でだけ、その髪でいろよ」
僕のその言葉に、幼馴染みは一瞬だけ驚いた顔をした。
「うん……!」
「ホントに分かってンのか? ……ほら、口にもついてる」
「わ、ごめん……!」
幼馴染みの手からウェットティッシュをひったくると、そっと口元を吹いた。
まるで子供みたいに幼く、照れくさそうに笑う幼馴染みの笑顔に思わず口元が緩くなる。
「委員長が買い食いしてンなら、俺もしようかな。なにがオススメ?」
「勿論、ホットチョコドック!」
「それはパス。店員さん、普通のホットドック頂戴」
それは、とある日の帰り道。
幼馴染みとの、幸せな一時。
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