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彼は優しく私の肩を抱いて、180度向きを変える。
久しぶりの感触に、心が満たされていく。
だけど。
「後ろを振り返ってはいけない!」
「どうして?」
「だから!動かないで!こっちを振り返らないで。
最期に一目、君に逢いたかったんだ」
刹那。
後方からの閃光。やや遅れて轟音と振動。
あまりの衝撃に、私はその場に座り込んだ。
熱さや匂いは感じない。
村を焼いた焼夷弾とは違う……。
でも、地面に映る私の影は、太陽の何倍も伸びている。
コートとマフラーがなかったら、素肌にダメージが残ったかも知れない。
運悪く、反対方向を向いていた人達は、視力を失った。
それだけ凄まじい閃光だった。
ねぇ、彼は?
閃光が収まり、背後を振り返る。
彼の姿はそこになかった。
彼の名を叫ぶ、泣きながら。
でも、彼からの返事はなく、私の声は周囲の雑踏と怒号に掻き消された。
私の手には握りつぶされた食べかけのバーミードッグと、指輪が残されていた。
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