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デスクの電話が鳴り、田島がワンコールで出た。電話の相手は取引先のどこかのようだ。神妙な面持ちで話を聞いていたが、途中から謝りだした。
「申し訳ございません。書類はすぐに作り直します。担当の吉岡には私の方で指導しておきますので。大変申し訳ございません」
すぐ近くに吉岡もいた。オフィス内の空気が途端にピリリとしたものに変わった。
田島が受話器を置くと、後ろを振り向き、怒りを押し殺したような静かな声で「吉岡さん」と呼んだ。
そこから田島冴子の吉岡への説教が始まった。取引先に吉岡が送った書面の数字が一桁間違っていたそうだが、話はそこから広がって今日の注意力がひどく散漫であること、社会人としての意識に欠けているのではないかということ、さらには日頃の勤務態度へと波及していった。
吉岡に原因があるのはもちろんだが、田島も頭痛のせいなのか怒りが倍増しているようでなかなか吉岡を解放しなかった。田島には時々こういうことがあり、そのせいで後輩からはあまり慕われていなかった。
そんな状況を見かねてか、舘川陸がフォローに入った。
「吉岡、すまん。報告書の作成手伝ってくれるか。俺別件で手が離せなくて」
舘川は静香より一つ年上だが、仕事ができ部署内のエース的存在だった。面倒見がよく部下からも好かれていた。静香はよく知らないが、もうすぐ結婚するという噂がある。
「あ、はい。すみません、すぐに取りかかります」
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