チョコレートパニック

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 舘川が差し出した書類を受け取ろうとした時、吉岡が自分の鞄を蹴ってしまい、倒した。その勢いで鞄に入っていたものが零れ出てしまう。ピンク色に包装された小さな箱が真っ先に目に入った。田島が目撃したという箱に違いなかった。確かに箱の大きさ的にチョコレートを連想させる。というよりも、静香の目から見てもそれはチョコレートの箱にしか見えなかった。  吉岡は慌てて鞄の中に戻そうとしたが、その前に田島がそれを手に取った。 「これは何かしら、吉岡さん。まさか、チョコじゃないわよね。うちの会社が義理チョコ禁止なの知らないのかしら」 「知ってます。……これは、義理チョコなんかじゃありません」 「へえ、そう。どっからどう見てもチョコにしか見えないんだけどね。私、ルール守らない人本当、嫌いなんだよね」  田島はピンク色の箱を吉岡に返した。吉岡は思い詰めた顔でその箱をじっと見ていたが、やがて意を決したように舘川に歩み寄ると、それを差し出した。 「舘川さん、これ、私からの気持ちです。報告書は早急に完成させます」  そう言って包装された箱を田島に手渡すと、代わりに書類を手にして自分の席に戻った。  田島を含め周囲にいた者は皆あっけに取られたように吉岡を見ていた。 「チョコはチョコです。でも、義理チョコなんかじゃありません。私、会社のルールを破ったりなんかしてません」  着席すると、吉岡はキッパリとした口調でそう言った。
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