チョコレートパニック

　舘川陸はイケメンとはいえないものの、仕事ができて信頼のおける性格から、女性社員にもよくモテた。ただ、舘川に長く付き合っている恋人がいることは部署内の人間なら皆何となく知っていたので、女性社員から積極的にアプローチをかけるようなことはなかった。
「私、悪いことしちゃったね」
　吉岡がミスした書類の修正が終わった頃、田島がポツリと言ったが静香は何も言葉を返すことができなかった。
　吉岡が舘川に本命チョコを渡したという噂は瞬く間に社内に広まってしまった。
　皆真面目な表情で押し隠しながら吉岡を好奇の目で見ていることが明らかだったが、吉岡は普段とは変わりないどころか、チョコの一件があって以降はミスもなく、集中して仕事に取り組んでいた。
　夕方頃、吉岡が舘川に頼まれていた仕事を終えたタイミングで、舘川が吉岡を連れ出した。戻ってきた時、吉岡はとても爽やかな顔をしていて、その目はちょっとだけ赤く腫れていた。
「吉岡さん、良かったら帰り一緒に煮干しラーメン食べに行かない？」
　終業後、静香が誘うと、吉岡は驚いた顔をした。
「いいですけど、先輩ダイエット中なんじゃ」
「ダイエットは今日だけ中断。煮干しラーメン５００円って聞いたら行かない訳にいかないでしょ」