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「あげないわよ。っていうか、うちの会社はあげちゃ駄目なの。言いたかったのはそれ。吉岡さん、連絡文書ちゃんと読んでる?」
てっきり大げさに驚くと思っていた吉岡がきょとんとした顔をしているので、静香の方が拍子抜けしてしまった。
「義理チョコ禁止ってあれですか。やだなぁ、先輩。ちゃんと読んでますよ。っていうか義理チョコ禁止令に関しては倉橋先輩が前に直接教えてくれたじゃないですか。私ちゃんと覚えてますよ」
そうだったろうか。そうだった気もする。あの頃は色々教えたので、静香の記憶も曖昧だった。
「……じゃあ、大丈夫なのね?」
静香の中に渦巻いていた怒りが急速に萎んでいった。
「大丈夫って、何がですか? 私が義理チョコ渡すかもってことですか? そんなことする訳ないじゃないですか。何で会社のおじさん達に渡さなくてもいいチョコなんて渡さないといけないんですか。私、そんなに奉仕精神に溢れてませんよ」
確かにそうだ。吉岡里沙は愛嬌を振りまいているようでありながら、ドライな所はドライで、上司連中が仕事終わりの飲みに誘っても調子よく断ることが多い。
バレンタインデーに義理チョコを配ってポイントを稼ぐようなタイプにも思えなかった。
では朝の田島冴子の目撃談は一体何だったのか。
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