帯刀と於菟二

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帯刀と於菟二

「ああ、旦那。そんなにされたら……死んじまうよ」  於菟二(おとじ)は緋色の夜具に突っ伏して、裸の腰をくねらせる。  少しばかり微温んだ春の雨が、軒瓦を叩いている。庭の梅花がほのかに香る。琴川に架かる鼓橋にほど近い、待合(まちあい)の小部屋だ。 「死ねよ」  後ろから攻めつけている男が、穏やかな声音で云う。 「なら旦那も、死んでくれるかい」 「よかろう」  ごつごつした硬い手指が於菟二の尻を掴み、穿つように腰を打ち付ける。 「ああ、駄目だ。出ちまう」 「かまわん」 「いやだね。あんたと一緒じぁなきゃ、癪にさわる」  於菟二は駄々をこねたが、逞しい男柱に奥まで貫かれ、たまらず気を遣ってしまった。  男の方は、息を弾ませる於菟二の尻を深々と二度突いて腰を退く。 「中で出してくれても、よかったのに」  だらしなく寝そべったまま、於菟二は云った。  枕許に添えられた花紙で後の始末をしていた男が、薄闇の中で眼を上げる。  武家様の髷を結った、涼しげな面立ちの、眼の鋭い男だ。年は三十絡み。泰然とした物腰や、香りのよい髪油を使っていることからも上級武士であると窺える。     
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