口約束より迷信

2/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 同じ中学で同じクラス。どうせ一緒に帰るのに、わざわざ放課後に体育館裏へ呼び出されたバレンタインデー。チョコレートを貰えるもんだと思ったら、渡されたのはミサンガだった。しかもそれは君がつけていたミサンガ。  君の瞳は青色。髪の毛は金色。日本語はたどたどしい片言。名前はアリス。  アリスが日本に来たのは1年前。日本について知らないことだらけってこともあるのだけれど、それを差し引いても驚かされることばかりだった。  俺は受け取ったミサンガを指でつまんで、アリスの目の前で、ぶらぶら揺らした。 「日本のバレンタインデーはチョコを贈るんだよ」  揺れるミサンガを追って、青い瞳を揺らすアリス。人差し指をまっすぐ立てて、唇に押し当てた。小さな子供みたいなその仕草は、アリスが日本語を頭の中で変換している証拠。 「チコ?」 「チョコ。チョコレート」 「chocolate?」 「チョコレート」  納得した君は空に向かって繰り返す。 「chocolate。チョコ。チョコレート」  俺もアリスに続いて繰り返す。 「chocolate。チョコ。チョコレート」  嬉しそうに首を振ったアリスが今度は先生役だ。 「chocolate」 「チョコレート?」 「chocolate」 「chocolate?」 「good」  ひとつ教わったら、ひとつ教える。そんな教え合いっこがふたりの会話。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!