口約束より迷信

3/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「ツケル ト ネガイ カナウ」  アリスが言った。ミサンガの意味を教えてくれたのだ。得意げッてほどでもないけれど、俺が知らないと思っていた。  手を伸ばすアリス。目的は一度渡したミサンガ。俺の手首に結ぼうとしたのだろう。だけど、アリスは掴めない。風はないはずなのに揺れるミサンガ。アリスの白い頬がお餅みたいにふくれた。それは俺のイジワルだって気が付いたから。俺がミサンガの意味を知っているって気が付いたから。 「つけるだけではダメ。願いは叶わない。切れた時に叶う」 「ホント?」 「本当だよ」  アリスの人差し指が再び唇に押し当てられた。分かったように問いかけた割に、まだまだ日本語の変換が終わっていない。そうなるだろうとわかっていて、わざと文章をつなげて伝えていた。  俺はアリスを困らせるのが好きだった。だから、もう一歩踏み込んだ。もっと困らせてやろうと思ったからだ。 「もしかして、そのミサンガって自分につけていたやつ?」  答えを知っていて問いかけた。アリスが身につけていたのは赤とオレンジの二色のミサンガ。今、手元にあるのがまさに同じ色。アリスの手首にはうっすらと結び目の跡が残っていた。  きっとバレンタインだってことを学校に来て知って、渡す物は何かとギリギリまで悩んだ末に、直前でミサンガに決めたのだろう。  アリスは本当に行き当たりばったりな行動ばかり。ちゃんと理解をする前に満足してしまうズボラな性格。ミサンガの赤とオレンジはアリスが好きな色。だけど、その二色は勝負運を上げる色。  しかも身につけていたのは右腕。利き手の逆につけるのは勉強への願掛け。全部があべこべなのだ。ちゃんと調べないから間違うし、結局、あとで痛い目に会うよっていつも注意していた。 「どんな願いを込めていたの?」 「ヒミツ」  俺の問いかけに、アリスは答えることを拒んだ。意地悪に対する反抗ではあるのだけど、ふたりにとってはこれもいつもの遊びの一つ。アリスがすねたり、むくれたりする顔が見たくって、意地悪なことを繰り返してしまう。そして、俺はいつも踏み外してしまう。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!