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「ツケル ト ネガイ カナウ」
アリスが言った。ミサンガの意味を教えてくれたのだ。得意げッてほどでもないけれど、俺が知らないと思っていた。
手を伸ばすアリス。目的は一度渡したミサンガ。俺の手首に結ぼうとしたのだろう。だけど、アリスは掴めない。風はないはずなのに揺れるミサンガ。アリスの白い頬がお餅みたいにふくれた。それは俺のイジワルだって気が付いたから。俺がミサンガの意味を知っているって気が付いたから。
「つけるだけではダメ。願いは叶わない。切れた時に叶う」
「ホント?」
「本当だよ」
アリスの人差し指が再び唇に押し当てられた。分かったように問いかけた割に、まだまだ日本語の変換が終わっていない。そうなるだろうとわかっていて、わざと文章をつなげて伝えていた。
俺はアリスを困らせるのが好きだった。だから、もう一歩踏み込んだ。もっと困らせてやろうと思ったからだ。
「もしかして、そのミサンガって自分につけていたやつ?」
答えを知っていて問いかけた。アリスが身につけていたのは赤とオレンジの二色のミサンガ。今、手元にあるのがまさに同じ色。アリスの手首にはうっすらと結び目の跡が残っていた。
きっとバレンタインだってことを学校に来て知って、渡す物は何かとギリギリまで悩んだ末に、直前でミサンガに決めたのだろう。
アリスは本当に行き当たりばったりな行動ばかり。ちゃんと理解をする前に満足してしまうズボラな性格。ミサンガの赤とオレンジはアリスが好きな色。だけど、その二色は勝負運を上げる色。
しかも身につけていたのは右腕。利き手の逆につけるのは勉強への願掛け。全部があべこべなのだ。ちゃんと調べないから間違うし、結局、あとで痛い目に会うよっていつも注意していた。
「どんな願いを込めていたの?」
「ヒミツ」
俺の問いかけに、アリスは答えることを拒んだ。意地悪に対する反抗ではあるのだけど、ふたりにとってはこれもいつもの遊びの一つ。アリスがすねたり、むくれたりする顔が見たくって、意地悪なことを繰り返してしまう。そして、俺はいつも踏み外してしまう。
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