口約束より迷信

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「自分で外したら、ミサンガに込めた願いは叶わないんだよ」  占いはもちろん、血液型性格診断だって信じていない。だから、ミサンガで願いが叶うなんて迷信だって思っていた。これくらいは冗談で済むもんだって思っていた。  だけど、アリスの瞳の涙で溢れて、青色が滲む。こぼれる雫は一切の曇りもなく純粋。俺は人差し指でそれを拭ってあげた。乾燥した肌に染みわたる悲しみ。なんとなくだけど、アリスが込めた願いが想像できた。 「ホント?」 「本当だよ」  薬指を差し出すアリス。教えた指切りげんまんが、いつの間にかアリスの中では真実を誓う儀式に解釈されていた。約束を守る誓いだって何度教えたって納得しない。自分なりの解釈の方が気に入ってしまったのだろう。  俺はアリスの薬指に自分の薬指を絡ませた。お決まりの文言は歌わない。アリスが上手く発音できないからだ。指切りもしない。手をつなぐように、薬指は絡めたまま。  アリスは来月で日本を断つ。一人親の母の仕事の都合だった。もう4度目の転校で、4か国目になる。決まったのは3か月前。それでアリスはミサンガを身につけた。 「ハナレタクナイ」 「俺もだよ」 「イッショニ イタイ」 「俺もだよ」 「ツイテキテヨ」  アリスがミサンガに込めた願いは、俺に追いかけてきてもらうこと。親の転勤の取り止めを願うことの方が現実的だと思うけど、これまで転校を繰り返したアリスにとっては、俺に期待する方が望みを持てたのだ。 「無理だよ。一緒には行けないよ」 「ミサンガ ハズシタ カラ?」  雨どいからこぼれ落ちる雫のように、しとしととアリスの頬から涙が落ちる。その落ちた先にはふたりが結んだ薬指。俺はその結んだ薬指をアリスの目線まで持ち上げた。 「アリスと一緒には行けない。けど、いつか必ず行くよ。絶対行く。誓うよ」  アリスは薬指なんて見ていなかった。それよりも俺の手に引っ掛かったようにぶら下がった揺れるミサンガを追っていた。
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