序章 3

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餌のミルワームを針につけ、投げ込むまでがヒサシの仕事で、頭にキイを乗せたまま、ユリは流れる川と竿先を見ていた。仕掛けは小石ほどの鉛と道糸、針だけの簡単なものだ。おもりが川底に沈み、その先で針についたミルワームが動く。イダが食らいつくと竿先が揺れてアタリがくるというものだ。セデ川は川幅があり流れがゆったりとしているが、浮きを使った釣りだと流れてしまい、頻繁に投げ込みをせねばらないのでこの方法のが効率的なのだ。 ヒサシは付近に大型昆虫がいないのを確認してユリに釣りを始めさせた。 釣りを始めて20分ほど経った頃、川面にポツリポツリと同心円状の波紋が立ち始めた。 雨が降り出したのだ。雨足は加速度的に強くなり広い川面の川上の方向から、飛沫(しぶき)のようにこちらに攻めてくるのが分かった。 ヒサシは雨を防ぐため、乗って来たカートを旧世界の遺跡である橋脚と、傾いて壊れた橋桁の下に移動させ、釣竿を離さないユリを半ば無理やりそこへ連れて避難した。 コンクリートが瓦礫の屋根となっている。 ザーッという音と雨の飛沫が二人を包んだ。 「雨で濡れてちょっと寒い」 ユリは並んで座るヒサシの太い腕にしがみつき、身体を摺り寄せた。 キイはユリの頭から、ヒサシの頭に飛び移った。 「折角の釣りが台無しだったな。早く雨が上がればいいのだが」 「ううん、このまま降っていてもらってもいいかも」 「意味が分からん」 「わからないでしょうね、朴念仁(ぼくねんじん)」 ユリはしがみ付いているヒサシの腕から顔を離し、べーっと舌を出して、またしがみ付いた。 ヒサシはそんなユリを可愛く思った。     
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