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序章 5
ガードの訓練の中で、森の中で複数の大型昆虫に襲われるというシミュレーションがあった。
それを頭の中で反芻する。
追いつきざまに背後から一人をショットガンで打つ。背中に命中し、もんどりうって倒れる白装束の男。
「1匹!」
横にいた男が振り返りヒサシに向かって銃を撃つ。
ジグザグに走り、矢の軌道を躱した。
次のショットガンの一撃を白装束の男の腹部へ放つ。
「2匹!」
ショットガンの連射は二発まで。
ヒサシは走りながらレバーを返して排莢し、ショットガンの弾倉に二発装填する。
背後から一発、二発で二人を撃った。
両手を上げるように倒れる二人。
「三匹!四匹!」
玉の無くなったショットガンを放り投げ、右手を後ろに回し腰のホルダーの拳銃を抜く。
背後から至近距離で頭を打ち抜く
「五匹!」
現場を制し、ふううと息を吐くが、その息はすぐに深いため息と変わった。
カーゴから降りた男五人をすべて倒したものの。
ツバキが倒れていた。
「たすけて」と叫んだ口の形のまま息絶えていた。
父のヒロも、母のモエも、目を見開いたまま仰向けに倒れていた。
「くそっ!くそっ!」
ヒサシは溢れる涙を抑えることが出来なかった。
護ることが出来なかった。
みんなを、ユリの姉と両親を。
カチャと音がした。
振り向くと、涙で歪む視界に銃を構えた男が立っていた。
銃口はヒサシに向いている。
しまった、カーゴの中に1人いたのか?
「君はこのコロニーのガードだね」
マイクを通したような、少し違和感のある声だった。
フードの下にはゴーグルがあり、ガスマスクも装着している。
顔は全く見えなかった。
淡々と問いかける男を、ヒサシは鬼の形相で睨んだ。
しかし、男は意に介せず、
「見事な手並みだ。仲間が5人、一瞬でやられてしまった」
と機械のような口調でヒサシに言った。
「見事だが、君の力ではこの世界は変わらない。私たちの罪は魂の救済のために」
ヒサシは拳銃を男に向けた、が。
その瞬間、胸に矢が刺さる衝撃を感じた。
男がヒサシよりも早く引き金を引いたのだ。
意識が遠くなる。
俺も死ぬんだ、みんなと同じように。みんなと同じところに行くんだ。
遠ざかる意識の中で、
「魂の救済、血と肉の魂の安寧のために」
と呪文のように言葉を綴る男の声を聴いていた。
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