序章 6

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序章 6

コロニーに火が放たれた。 風上から放たれた火は、みるみるコロニー全部を包んでいく。 半日前までは平和で笑い声に満たされていたコロニーは、巨大な悪魔の舌に似た炎に包まれていた。 北西の強い風に煽られ、黒々とした煙が竜の腹のように南東へたなびく。 そのなかを、カーゴがゆっくりと走り去っていった。 ユリの両親とツバキ、そしてヒサシが横たわる家も炎に包まれた。 全てを焼き尽くす炎。 「ヒサシ!ヒサシ!しっかりして!」 ヒサシの頬を叩く者がいた。 ユリだ。 キイがユリの頭からヒサシの顔に着地し、まぶたをこじ開けた。 ヒサシは生きていた。 キイに開かれた目に、涙を流しながら叫ぶユリの顔が映った。 ユリは自分の倍はある体格のヒサシの肩を担ぎ、炎の走る家から外に出た。 振り返りしかし脚を止めず、 「おかあさん、おとうさん、お姉ちゃんーーーーーーーーーーごめんね」 と泣きながら。 「風上へ」 ヒサシはうつろな意識の中、ユリに言った。 「わかってるわよ」 ユリはヒサシを支えながらコロニーの中を風上へよろよろと歩く。 煙と炎を間をすり抜け、ガード小屋の前まで来て二人は倒れこんだ。 キイがユリの頭を離れ、一瞬遅く地面に着地した。     
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