序章 3

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序章 3

虫たちが居なくなる晩秋から冬の間、コロニーの外も比較的安全となる。 ユリがまだ幼かった頃、7~8歳であったろうか、ヒサシはユリを連れて釣りに行ったことがあった。セデ川の(ほとり)で釣り糸を垂れ、20cm級の落ちイダを十数匹釣り上げたことがあった。 イダは旧世界から存在する肉食魚で、身は少し癖があるが、燻製にして食べるとなかなかに美味だ。タンパク質が不足しているこの世界では貴重な食糧であったが、柵外は虫が多くなかなか容易には外に出られない。今は秋が更け晩秋に近い気候ではあったが、虫に襲われる危険は少なからずあった。 時間を節約するために、ヒサシはユリをカートに乗せ、ユリの家へ向かった。 ユリの父ヒロは、活動的なユリの行動に手を焼いているが、ヒサシにいつも助けてもらってありがたい的な事を言っていた。母のモエも笑っている。 いざというとき、ユリをたのむとの意味の事も言っていた。 「ヒサシ、これあげる」 ユリは木の枝を輪切りにした小さな円盤に、何やら文字を彫り込んだバッチのようなものをヒサシに渡した。幸運のお守りだそうだ。 あきれ顔のヒサシは「ありがとう」と抑揚のない例を言うとそれを胸ポケットにしまった。     
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