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― その日の夜
ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥
心電図の波形が、モニターに映し出されている。
所々が破れ、ガムテープで補修してある古い診察用ベッドの上に天神が横になっていた。
その手足には、使い込まれた旧式のプローブがつけられている。
年老いた医者が、その脇でじっとその波形の動きを眺めていた。
「テレビで見てたよ、今日の試合‥‥。やれやれ、お前さんのせいでCS放送なんぞ契約さらせれるハメになろうとはな‥‥フン、トンだ出費じゃわい‥‥」
「文句なら‥‥オレじゃなくってテレビ局に言いな。最近は地上波の中継も減っちまったからな‥‥タイタンズが相手でもなけりゃぁ『枠』は無ぇよ‥‥」
ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥
無機質な白い部屋で、電子音がリズムを刻む。
「‥‥いつも済まねぇな、先生。遅くに押し掛けちまって‥‥」
時計の針は、すでに12時近くを指している。
「ん?別に構わんぞ。医者は飲み屋じゃぁ無いんだ。閉店なんぞ、無くて当然じゃからな‥‥それより、チャンと薬は飲んどるだろうな? アレだけが、アンタの心臓を繋ぎ止めとるからな‥‥」
ジロリ、と医者が天神を睨む。
「ああ、飲んでるよ。何、オレも別に死にたい訳じゃ無ぇ」
天井を見つめたまま、天神が答える。
「覚えてるだろうが、お前さんの心臓は極度の緊張には耐えられん‥‥薬で副腎から出るアドレナリンの量を抑制しとるから、どうにか『もっとる』に過ぎんからな。その代わり‥‥」
「ああ、理解してるよ。『お陰で』球速が昔みてぇには出ねぇ‥‥表向きは『トシのせい』って話になってるがよ。ま、その分は『ナックル』を磨いたりコントロール精度を上げたりして、どうにか誤魔化してるさ」
ふぅっ‥‥と天神が溜息をつく。
「で、今の所は大丈夫そうか‥‥? オレの心臓はよ」
「‥‥太鼓判は押せんのぉ。やっぱり、弱っとる。とりあえず‥‥薬だけは欠かさず飲むんだな。何にしたって、自分の命が一番なんじゃからな‥‥」
医者はそう言って、天神の腕からプローブを回収しだした。
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