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「由良さんは真面目だから、引っ越ししたらもうここの住人じゃないとか思っているでしょ?」
「だって…そうでしょ?」
玄関の前に来て、
「由良さん、ちょっと立てる?」
と言い、由良を下ろす。
ポケットから、鍵を出して開ける。
「それ……留衣子さんに返した?」
引っ越し当日に、由良はマンションの鍵を返していた。
「預かってました。好きな時に来て良いのにって。僕も玄関までは許可されたんで…はい、鍵。由良さんの部屋、いつでも使ってって。明日の朝、迎えに来ます。ほら、僕早起きだから…。はい、携帯。何かあったらすぐ電話を。戸締りもしっかりね。
莉梨子ちゃん、6時過ぎになるそうだから、帰宅。」
「何で…?」
「留衣子さんは引っ越ししても好きな時に遊びに来てと言っていたでしょう?自分達が居なくても、好きに来てという事ですよ?この時間なら電車も空いてる。
由良さん、大事に思う物を1つにする事はないし、引っ越したからって、僕の家に縛られる事もない。急に環境が変わって、身体は楽だけど忙しくしていた由良さんは、戸惑ってしまうんですよ。いつ、来ても良いようになってるって。」
帰ろうとした一路の背中にしがみついた。
「ごめん、ありがとう。」
「謝る事はないです。実家に帰るでしょ?子供産む時…ここは由良さんの実家みたいなものでしょ?ゆっくりでいいですよ。じゃあ、明日。僕が出たらすぐ鍵閉めて下さいよ?」
大きく深呼吸する。
そのままの部屋…。
不思議と体が動く。
掃除して料理を作る。
冷凍庫もいっぱいにする。
莉梨子にメールを入れる。
「牛乳、卵、ひき肉、じゃがいも、帰りに買って来て。 らら。」
17時にはリビングのソファで横になって、うとうとしていた。
それからは週に一度、自分の休日に顔を出す様になった。
こうじゃなきゃ…と、考えているのは自分だと、一路さんが教えてくれた。
決まりはない…良いと言う人がいれば、我儘は我儘ではなくなる。
そうやって私も、変わっていく。
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