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昼休みに彼、に声をかけられた。
ドキッとして、走り去りたいのを耐えた。
「ごめんね?昨日は無理言って…。駄目だろうなとは、考えてた。けど、もしかして…なんて、ちょっと期待してしまって…本当にごめん。」
真摯に謝る姿は、莉梨子の怒りを溶かすようだった。
「ううん…ごめんね?私、家を出ているし、会社には無関係だから。」
「伊藤さんは悪くないよ?ここに居るのに、まだ就職を引きずっている自分がいけないと思う。これからも宜しくね?同士として仲良くしてほしい、駄目かな?」
キョトンとして間を置いてから、莉梨子は返事をした。
「うう…ん……駄目じゃないよ?こちらこそ……よろしく…。」
「良かったぁ。ありがとう。」
微笑んで走り去った。
微笑んだ笑顔に、莉梨子はその場に座り込んだ。
「運命……来ちゃった? いや!駄目!勉強!今は勉強!」
自分に強く言い聞かせていた。
その日は、しばらく夕食は作れないから、と朝食時に話していた留衣子から、夕食を作るとメールが夕方入った。
彼…が、お詫びに帰りに少し何か食べない?と誘ってくれていた。
しばらくは巽の世話で忙しくなる。
このチャンスは今だけではないかと思えた。
「昨日の彼が、帰りに誘ってくれたの。謝ってくれたし。お茶だけ付き合ってから帰るね。明日からはお誘いは全部断るから。6時過ぎには帰るから。お夕飯食べるから。」
悪いなぁと、何処かで思いながら返信した。
「気にしないで?良かったわね。謝るって難しいものよ?楽しんで。」
返信は、留衣子らしいアドバイスが混ぜられていた。
その日、ゆっくりと夕飯を作り、巽の離乳食も保存食として多めに作った。
ここから先は、きっと巽との時間は取れない。
そう考えると、二人が遅くなるのは、わざとでは?と思えたほど、二人でゆっくり過ごせた。
わずか2~3時間の事だったが、家の中に巽の声だけが響いた。
嬉しさと寂しさが込み上げていた。
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