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一、神様が死んで腐ったやつ(春)
馬鹿と煙は高い所が好き。
と、いうことは、高所恐怖症の人間は賢い。
この論法で自らの賢さを主張したとして、
スムーズに大衆の同意を得られるかは知らない。
度胸のある人は試みたらいいと思う。
そういう証明をしてくれても、あるいはしてくれなくても、高所恐怖症は僕の味方だ。
自殺の危険から、僕を守ってくれる。
どんなに生きるのに疲れても、高い所にさえ行けば、
ちらりと見下ろすだけで、ここから落ちたらどうなるか、
ここから落ちることは果たしてありえるか、僕は考え始める。
足が震えて動けなくなると同時に、頭の中で数人の僕が落ちて潰れる映像が再生される。
下ばかり見ている必要はない。近くにある同じくらいの高さの建物を見るのもいい。
自分の踏んでいる床を凝視していないと、
踏みしめていたはずの地面はフラリと消えてしまう。
僕は必死で何か「頼れるもの」にしがみついていようとするのだけれど、
僕が掴むものは次々と信頼を失っていくのだ。
心臓は誰かに握りしめられているようで、血液は滞っている。
脳は思考のバリエーションを失う。いよいよ酸素の足りなくなった脳の考えることは
残り一つしかない。人も車も木も小さく見えるというそれだけの事実から、
一足飛びに論は結ばれる。
僕は落ちて死ぬ!
死にたくない!
高所恐怖症があるから、
僕は自分が死にたくないってわかる。
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