一、神様が死んで腐ったやつ(春)

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僕は水分を含んだズボンとパンツを脱いで、軽く下洗いしてから洗濯機に投げた。 洗剤をプラスチックのスプーンですくって入れ、スイッチオン。 騒がしい機械音がシャワーの水音に混じる。 明らかに寿命を迎えている機械の奏でる騒音だ。 隣人の気に障って、訪ねて来られたらどうしよう。 夜にうるさい洗濯機の音で隣人に迷惑をかけるなんて、万死に値する。 彼女は長い髪のわりにさっさと浴び終えて、僕のTシャツとジャージで 学習机に陣取った。僕と大体背丈が同じなのでサイズはぴったり。 ついでに僕より似合っている。 かわいい服より、格好いい服が似合うなあ、なんて。 「腹が空ったな」 髪をタオルで拭きながら、彼女は言う。 シャワーを終えたばかりの僕は、この部屋にある食料について思案した。 「砂糖ならあるけど、それ以外食料っぽいものはないよ」 「逆に砂糖はあるんだな」 彼女はとりあえず僕が差し出した砂糖の袋に指を突っ込み、舐めてから顔をしかめた。 「クソ甘いな。しかもベタベタする」 「数年の時を経て湿気た砂糖だからね」 仕方ないので、僕は財布を持ってスリッパに足を突っ込んだ。 パーカーのフードを被って、最寄りのコンビニで食料調達。 いつも眠そうな声の店員さん、顔は一度も見たことがない。 十五分の旅を終えてドアを開けると、「おかえり」という声が返ってきて、 何年ぶりだろうと数えながら「ただいま」と返した。 冷蔵庫の上にレジ袋を置いてフードを取る。 彼女は僕の学習机に興味を示して、引き出しを開けまくっていたようだった。 丸眼鏡の小学生の机なら、タイムマシンが入っている位置の引き出しには、 血で錆びたカッターナイフの刃の欠片がばらばらと散らばっていた。 僕はなんとなく両腕を後ろに隠す。
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