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鞄を取り上げたとき、薄っぺらいピンク色のノートが入っているのに気がついた。僕は教科書もノートも全て学校に置きっぱなしにしているのに、これだけは一応持って帰らなくてはならない。財布とペンケース、そしてこのノートしか入っていない鞄も、痩せこけた僕にはわりと重い。
ノートのタイトルは「バンリくんと先生の交換日記」。
保健の先生の、めくるめく日々の記録が刻まれているノート。昨日、また男と別れたらしい。売れないミュージシャンが二度とこの日記に現れないと思うと嬉しい。
僕はこのノートを百九十二回受け取っている。僕がこのノートに百九十一回「特に何もありませんでした」と書いていることを、先生はあまり深く考えていない。
そういう試みが大切なのだ。そういうポーズが必要なのだ。
僕はいわゆる「病んでしまった生徒」なのだから。
生徒数が減って教室としては使われなくなった七階の、特別指導室。
ベッドと机と丸椅子しかない、六畳ほどの細長い部屋。
最初はインフルエンザなんかの感染病にかかった生徒を寝かせておくという
目的で設置された部屋らしい。
この部屋が僕の教室で、いわゆる別室登校のための空間だ。
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