一、神様が死んで腐ったやつ(春)

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度を過ぎたいじめからの保護という名目で高校一年生の秋に移住してから、もう一年半。 一から十まで誤解にもほどがあったけど、一人になれるなら一人にしてもらった方が 楽だったから、ありがたく便乗しておいた。   ひゅう。 「あ」 強い風がまた吹いて、僕の手からノートが旅立った。 給水タンクのバルブに引っかかって揺れている。 どうせ百九十二個目の「特に何もありませんでした」が書き込まれるだけのノートを、 僕はふらふらと追いかけた。のろい僕をからかうように、ノートはまた飛ぶ。   エアコンの室外機軍団の裏に回り込んだあたりで強い風が吹いて、ノートは高く飛び上がった。どうにか歩ける範囲外に出てしまったし、もう諦めた方がよさそう。 ここでとうとう僕は、塀に腰掛ける少女を視界に収めた。 組んだ足を無造作に外に投げ出している。 僕がどうしても出来なかった「塀に腰掛ける」を、造作もなくやってのけている。 腰まであるポニーテールを風になびかせ、赤いロングカーディガンのポケットに両手を収めて、大きな瞳は街の灯りで輝いている。 彼女の方は、ずっと最初から僕を見ていたかのようだった。 彼女は自らの頭上に舞うノートに気がつき、塀の上に立ちあがって手を伸ばした。 伸ばした手を逃れるようにノートは校舎から離れる。     
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